今回の震災は被災地だけでなく、日本全体に大きなショックと動揺をもたらしました。その結果、日常では考えられないようなストレスに苦しんでいる人がたくさんいます。
■被災地以外でもストレス障害?
東日本大震災は、被災地以外の人々の心にも大きな影響を与えており、連日の不眠症状や健康被害に苦しんでいる人の報告がたくさん出ています。
たとえば人気ロックバンド「スピッツ」のボーカルである草野マサムネさんは、連日報道される震災の想像を絶する被害に心を痛め、「急性ストレス障害」という心のトラブルで倒れ、予定されていた公演を中止せざるを得ない状態になりました。
急性ストレス障害(ASD)とは、非常に強いショックを伴う出来事を経験したことにより、フラッシュバックや悪夢が襲ったり、そのことを思い出すのを過剰に避けたり、不眠や苛立ちなどの過敏な症状が強く現れたりするストレス反応です。
ASDは1ヶ月以内で治癒する一過性のものですが、同じ症状が1ヶ月以上続くようになると、外傷後ストレス障害(PTSD)につながってしまいます。したがって、こうした症状に見舞われた場合には、精神科医に相談して早期に治療を開始し、しっかりと休養をとって心身を落ち着かせる必要があります。
■震災後に見られた特徴的な行動の数々
また今回の震災によるショックと不安は、人々の行動をも極端に変化させました。
火急の必要性はないのに食料品や日用品の買い占めに走る人々、芸能人のちょっとした言動にも誹謗中傷を繰り返す人々、不安定な通信環境と知りながらもメールや電話に時間を費やす人々の姿も見られました。その一方で情報発信に懸命になる方々、被災地の方々の役に立とうと募金やボランティアに立たれる方もたくさん見られるようになりました。
また被災地の方々に対して何もできない自分や、役に立てない自分を過度に責め、罪悪感にさいなまれている人もたくさんいます。
未曾有の地震によるストレス反応であることは明白ですが、強いストレスに直面すると、人はどうして日常では考えられないような極端な行動をとることがあるのでしょう?
■買い占めも八つ当たりも「防衛」!?
人は、ある事実を経験して強い不安や欲求不満を感じたとき、その事実に直面して自分の心が強く傷つき壊れてしまうのを防ぐために、「防衛」と呼ばれる反応を起こします。震災によって起こった数々の極端な行動も、人間に備わっているこの防衛機制をもとに考えることができるかもしれません。
たとえば、パニックとも見られるほどの極端な食料品や日用品の買い占め行動は、「今買わなければ!」という購買欲と、それに伴う買い物行動に一時的に熱中することで、過剰な不安から逃避しようとする一種の防衛機制なのではないかと考えられます。
また、芸能人がブログで書いた震災への発言や、首都圏から居を移した人々の行動に怒りをあらわにした言動は、誰かを攻撃(八つ当たり)することで緊張を緩和させようとする防衛機制であると考えられますし、また、震災を免れ不自由なく生活していることへの自責の念や罪悪感は、攻撃を自分自身へ向ける欲求不満反応であるとも考えられます。
では、電話やメール、ツイッターなどを通じて、不安な気持ちをしゃべり続ける行動は、どうでしょう? 「誰かとつながっていたい」と、途端に子どもっぽい甘えが生じ、何かに依存していたくなる退行的な防衛機制であるとも考えられます。
たとえば震災以降、交際中のカップルが急に結婚を考えるケースが増えています。特に女性から男性にプロポーズすることが多いそうです。結婚相談所への女性入会者が増えている一方、成婚して退会する率も増えています。ブライダルグッズ全体の売り上げは落ち込んでいるなか、安価なものだけは売り上げを伸ばしているということです。これも、想像を絶する震災や津波の現実を目の当たりにしたり、余震、停電、物不足、放射能などのさまざまな社会不安による、女性の男性への依存=自己防衛機制なのではないでしょうか。
■情報収集やボランティアにのめり込むのはなぜ?
社会的な問題となった行動だけでなく、一般に「模範的」といわれる行動にも防衛機制が関与していると考えられるケースが見られます。
たとえば、震災情報に朝まで目が離せず、また寝食を忘れて情報を発信するような行動は、実は「今やるべきこと」から避けるために、震災情報にのめりこむという、知性化の防衛機制が働いているのかもしれません。
また、募金活動やボランティアに夢中になる行為は、現状に満足していない自分自身を、別の望ましい行動によって補償しようとする防衛機制による行動なのかもしれません。
知性化や補償のような防衛機制は、肯定的に働くことによって、自分自身の新たな生かし方を見つけられることもあり、合理的な結果へと結びつくこともあります。
■心身の健康、行動のバランスが大切
連日の報道で想像を絶する震災の現実を目の当たりにし、さらに余震や停電、放射能災害などによって不安が掻き立てられるような日々が連日のように続いたため、多くの人にこうした防衛機制が働いたのも自然な現象だと思います。
しかし、防衛機制による反応が行きすぎてしまうと、個人の行動のバランスを崩し、また物資の不足や経済の混乱といった、社会的な問題にも結び付いてしまいます。また、震災のストレスによって、自らの健康を害してしまっては元も子もありません。
したがって、極端な行動変化やつらい症状に気づいたときには、他のリラクゼーション方法(たとえば呼吸法、アロマセラピー、音楽など)も取り入れたり、意識的にしっかり休養をとったりすることで緊張を解消させることも大切です。
「All About」記事より
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